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ユダヤ。 ~ 作曲家バーンスタインの交響曲第1番『エレミア』♪


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レナード・バーンスタイン作品集[8CD+1DVD BOX]
マリン・オールソップ指揮ボーンマス交響楽団、サンパウロ交響楽団他
NAXOS


┃ユダヤ人極小史。

"ユダヤ"というのは、音楽史をかじっていると頻繁に出くわすどころか、その歴史の地下水脈として流れつづけているかのような印象さえ受ける重要なテーマ。

まず、「ユダヤ人」とは何なのか。Wikipediaでは、中世までの「ユダヤ人=ユダヤ教を信仰する人々」という定義から、近代以降では「ユダヤ教徒の家系でキリスト教に改宗した人々」という定義に変化した、とある。

ユダヤ教は「古代の中近東で始まった唯一神ヤハウェを神とし、選民思想や救世主信仰などを特色とするユダヤ人の民族宗教」であり、イエス・キリストを磔にしたのもユダヤ人とされ、迫害されてきた。

 *  *  *

ここは名場面目白押しなので、話を旧約聖書からはじめる。

むか~しむかし、アブラハムがカナンの地(現在のイスラエル、パレスチナ付近)に入植し、遊牧生活を営みヘブライ人と呼ばれた。やがてエジプトに集団移住するものの、奴隷とされる。この奴隷を率いてエジプトを脱出したのがモーセであり、名高い「出エジプト」。

カナンの地に辿りついた彼らはイスラエル人と名乗り、その後イスラエル王国の建国を成し遂げ、ダビデ王ソロモン王のもとで最盛期を迎えるも、しばらくしてイスラエル王国とユダ王国に分裂。さらにどちらもアッシリアや新バビロニアに滅ぼされてしまう。滅んだユダ王国の移民の多くは奴隷としてバビロンに囚われることとなり(バビロン捕囚)、ユダ王国の遺民の意味でユダヤ人と呼ばれた。

その後解放されてローマ帝国の属州となったのち、決定的な事件が起こる。イエス・キリストを告発し、磔にしたのがユダヤ人とされたのだ。その後反乱を鎮圧され、キリスト教が派遣を握って以後、厳しい民族的弾圧を受けることとなる。

以来ユダヤ人は2000年近く統一した民族集団を持たず、世界各地に離散してゆき、こうして「故郷なき民、さまよえるユダヤ人」のイメージが形成された。

そして、1918年にアメリカに生をうけたレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein、1918-1990)もまた、ユダヤ人を父にもつ音楽家だった。



┃エレミアの哀歌。

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レンブラントの「エルサレム滅亡を嘆く預言者エレミヤ」(部分)。CDジャケットにもよく使用される。


バーンスタインは自身の「ユダヤ系」というアイデンティティーを強く意識していて、まだ無名の20代前半、1939年から1942年にかけて作曲した最初の交響曲の主題にエレミアの哀歌を選んだ。

エレミアの哀歌はヘブライ聖書の中のひとつで、紀元前586年におきたエルサレムの陥落とエルサレム神殿の破壊を嘆く歌であり、預言者エレミアの作とされている。まさにユダヤの主題。

全体で24分ほどの交響曲は、悲痛な表情の第1楽章「予言」:Largamente、破壊のスケルツォである第2楽章「冒涜」:Vivace con brio、そしてメゾ・ソプラノが哀歌を―なんとわざわざ原語のヘブライ語で―歌う第3楽章「哀歌」:Lentoからなる。

音楽的なユダヤ性としては、スケルツォはヘブライの聖歌のパラフレーズで導入されること、独唱の入りのフレーズがバビロニアによるエルサレムの破壊を記念して現在でも歌われる典礼の歌からモチーフを利用していることなどがある。


  なぜ、あなたはわれわれをながく忘れ、
  われわれを久しく捨ておかれるのですか。

  主よ、あなたに帰らせてください、
  われわれは帰ります。
  われわれの日を新たにして、
  いにしえの日のようにしてください。



やがてメゾソプラノの独唱も途切れ、弦楽器を中心に希望を目指しながら、曲は静かに消えていく・・・。

バーンスタインは語っています。
わたしはこれまで書いた作品で、ずっとわれわれの時代の危機について、信仰の危機について書いてきた。たとえエレミアのような最初の作品を書いたときでも、わたしはその危機と闘っていた。


この作品は作曲コンクールには落選。しかしフリッツ・ライナーの眼にとまり、ピッツバーグで作曲者の指揮により初演され、敬虔なユダヤ教徒でバーンスタインに多大な影響を与えた父サミュエルに献呈されました。


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